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タカムラ歯科医院の物語

二重の動線分離


10年ごとのリニューアル

 タカムラ歯科医院は東京都町田市の住宅地に立地しています。ご自分で所有されているマンションの1階で開業されています。30年前に開業し、20年前に現在の建物を新築。10年前にクロスの張替えと、これまで10年ごとに医院を新しくしてこれらました。新築以来の本格的なリニューアルとなる今回、いろいろなところに相談される中で、私どもにもご連絡をいただきました。
 医院の配置は動線分離となっており、4台のユニットが並んでいます。とは言っても診療室は個室ではありません。個室にしたいというのが今回のリニューアルの一番の目的です。また、予防専用の治療室を設けること、カウンセリング室をつくること、受付を使いやすく高級感を出すことなどを要望されました。

動線分離

 既存の医院を拝見すると、確かに動線分離とはなっています。しかし、窓側の通路とユニットの間は事務所などで使うガラスのパーティションとなっているだけで、入口には扉がありません。したがって、通路を歩く患者さんから治療中の様子が見えてしまいます。また、通路の窓の向こうは道路となっており、そちらからの視線も気になります。そのため、窓には一日中ブラインドが下ろされています。
 動線分離タイプの歯科医院は、患者さんの動線と作業動線を分けることにより、理想的な配置と宣伝されがちです。しかし、通路側がオープンになっていると、治療中の様子がよけいに見やすいため、プライバシー上はよいとは言えません。ブースを作って個室化を図る場合も、入口がオープンなままでは、プライバシーを高めるという目的を達成できないと思います。

プランの検討

 私どもでは、プランを検討する時、いろいろな可能性についても考えてみます。今回は、もともと動線分離プランですが、それを洗練させる案と同時に、動線分離をやめてユニットを窓側に移動させる案も検討してみました。動線分離プランは、さすがに動線がすっきりしています。ただし、通路のスペースが必要な分、診療室は狭くなってしまいます。一方、動線を分離しないと診療室に大きな余裕が生まれ、広々と使うことができます。ユニットの台数はもともとあった4台のままで、増設する計画はありません。この建物は2階から上がマンションになっているため、柱の他に排水管などが入っているパイプスペースが各所にあり、それがプランに大きな制約を与えています。それらの位置がユニットの配置を決めてしまうので、ブースの位置を大きく変えることは難しそうです。
 ポイントとなったのは、新たに設置した予防用ブースとカウンセリング室です。タカムラ歯科医院ではこれまでカウンセリング室を使っていなかったので、どういう風に使ってよいか具体的なイメージがなかなかわかないようです。そこで、他の医院の事例を紹介しながら、患者さんにどういうふうに動いてもらうか、スタッフはどうフォローすべきかを考えていただきました。いくつかのパターンを検討する中で、予防用ブースやカウンセリング室は待合室側にすることになりました。それをもとに動線について検討した結果、はやり分離型がよいということで最終案がまとまりました。

二重の動線の確保

 患者さんは待合室から窓際の廊下を通って診察室に入ります。廊下と診察室の間はガラス壁で仕切られ、扉はガラスの入った引戸となっています。これらのガラスには半透明のフィルムが貼られており、光は入りますが、プライバシーは確保されています。これまでは、動線分離の通路をお子さんが歩き回ることもあり気になっていたそうです。これからはそれも気にならないでしょう。
 診療室と診療室の間は、人の背丈ほどの壁になっています。天井までの壁にすれば、隣のブースの話し声や治療の音も聞こえなくなり理想的です。しかし、既存のエアコンをそのまま利用するため、壁の上部は空けています。
 ブースの後ろは通路となっています。この通路は、スタッフが行き来しますが、患者さんが利用することも多いので、ブースの間には壁を設置しています。ただし、こちらは作業の支障となるので扉は設置していません。患者さんの後ろなのでプライバシーはある程度守られています。一番手前は予防専用のブースとなりました。ここだけは通路側にも扉を付けています。
 消毒コーナーや技工室は独立した部屋にしたため、この通路はこれまでのような作業用の裏のスペースではなく、表の顔も持つ場所となりました。そして、その通路にはカウンセリング室が設けられ、受付の脇から入ることができるようになりました。おかげでただの動線分離ではなく、二重の患者さん用動線が確保されたことになります。

高級感と機能性の両立


ワークショップ

 タカムラ歯科医院では、プランの検討と並行して、スタッフの皆さんによるワークショップも開催していただきました。ワークショップでは「患者」と「スタッフ」のそれぞれの視点から、いきたくなる歯科医院とはどういうものか意見を出し合いました。スタッフの皆さんはついついスタッフの立場で判断して行動してしまいがちです。しかし、それは必ずしも患者さんにとって快適であるとは限りません。それを、自分が患者ならどう思うかということを考えてみようというワークショップです。これは何も難しいことではありません。誰しも、他の医院にいけば患者になるのですから。沢山の医院がある時、あなたならどんな医院を選びますか。そう自分に問いかければよいのです。そして、次にスタッフの立場で使いやすい歯科医院とはどういうものかを考えます。往々にしてこの2つの立場は違う場合があります。昼休みを利用した短時間のワークショップでしたが、いろいろな意見が出されました。これらの意見は、直接医院づくりに反映されることもあります。それ以上に大切なことは、スタッフの皆さんの意識が変わることです。

 

医院の顔となる受付

 受付には2つの役割が求められます。ひとつは医院の顔として患者さんが最初に接する場所ですので、高級感や清潔感、信頼感などが必要です。もうひとつは、受付業務をこなすための機能性が必要となります。
 受付のイメージをアップするために、タカムラ歯科医院ではカルテ棚が患者さんから見えないようにしています。下の写真の濃い色の壁は、実はカルテ棚の背面です。以前受付側を向いていたカルテ棚を後ろ向きにし、独立したカルテ庫としています。受付側の壁には茶色の皮模様のボードを張っています。カウンターには大理石模様のボードを張り、そのコントラストで高級感を演出しています。
 カウンターを照らすライトは、ダウンライトにすることが多いのですが、天井部分が既存の間接照明となっており、それをそのまま活かすことにしたため、機器の設置スペースが取れません。そこで、アクリル板で照明器具をつくりました。これが受付のアクセントとなっています。
 一方、カウンター内は徹底的に機能性を重視する必要があります。タカムラ歯科医院では、受付は立って行います。そのため座るためのスペースを節約でき、カウンター内に大きなカルテ棚を設置し、各種機器も隙間なく配置することができました。

 

待合室

 タカムラ歯科医院は、リニューアル前から比較的広い待合室となっていました。そこには3つの造付けのソファが置かれていました。リニューアルにあたって、カウンセリング室が少し飛び出すような形となり、面積は縮小されました。さらにキッズコーナーを設置したため、椅子に座れる人数も少なくせざるを得ません。そこで、ベンチは生地を張り替えて一ヶ所残しながら、窓際にカウンター席、玄関や受付前に一人掛け椅子を置き、いろいろな場所で思い思いに治療を待つ時間を過ごせるようにしました。リニューアルにあたって、医院全体を土足にしたことも、待合スペースを広げることに効果がありました。
 窓際のカウンター席の上部には、受付に設置したものと同じアクリル製の照明器具を設置しました。細長い待合室の奥は、暗く見えてしまうことが多く、入りにくい印象を与えがちです。この照明のおかげで、明るい場所が奥に見えて、入りやすくなっていると思います。
 キッズコーナーはカウンター席の隣、パネルで囲われた中にあります。とても狭いスペースではありますが、小さなお子さんには身体になじむ大きさです。親も目が届くので安心です。

カウンセリング室

 今回のリニューアルで設置したカウンセリング室は、待合室と診療室の間にあり、どちらからも入ることができます。右上の左の写真は待合室側の入口。不透明のフィルムを貼って中が見えないようにしています。この扉から直接患者さんをカウンセリングに招き入れることができます。また、この扉の先には通路があり、診療室につながっています。診療室からカウンセリング室に入ってもらうこともでき、相談の内容に応じていろいろな使い方ができるようになっています。
 カウンセリング室は狭いスペースながら、3人までは座ることができます。円形のテーブルを囲んで資料やパソコンのモニターを見ながら説明することができます。壁には、講習会の修了証などを縮小コピーして、小さな額に入れて飾っています。

洗口コーナー

 リニューアル前、タカムラ歯科医院ではトイレの洗面所で洗口コーナーを兼ねていました。そのためでしょうか、あまり使われていなかったそうです。そこで、今回のリニューアルでは、トイレとは別に洗口コーナーを設置しました。間接照明として、明るく雰囲気のよい洗口コーナーとなりました。


株式会社コムネット Together 連載 「いきたくなる歯科医院」より転載

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