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もりやま歯科の物語

出張相談で秋田へ

私たちの出張相談に、秋田の森山先生から申し込みをいただいたのは2月のことです。早速、飛行機と電車を乗り継いで、厳冬の男鹿半島を訪れました。

森山先生からは、ユニットを2台増やしたいので、地元の工務店に相談しているが、おしゃれな歯科医院にするにはどうしたらよいかというものでした。図面を拝見すると、診察室を増築する案となっています。しかも敷地に余裕がないため、敷地形状に合わせて斜めに増築するというものでした。

その場で図面を検討

もりやま歯科医院は森山先生のお父さんが開業された歯科医院です。建物は木造2階建て、1階が診察室となっています。2階には和室や応接室,書斎になっています。1階だけで面積は140平方メートル(42坪)もあり、都会の歯科医院から見たらうらやましいほどの広さです。そこに4台のユニットを置いて治療されていました。

十分な面積があるので、増築せずにユニットを増やすことができないかどうかを、その場で図面を書きながら検討しました。待合室が狭い、作業動線が合理的ではない、バリアフリーなどの問題点の解決も同時に図れないかも検討しました。全体に無駄なスペースがあり、それらを整理することによって、改装だけで快適な歯科医院になりそうな案を作ることができました。

気がつくと相談をはじめてから5時間も経っていました。せっかく遠くまで行ったので、1〜2時間の相談で帰るのはもったいないと、じっくりとご相談に応じましたが、いい結論を出すことができたと思います。

遠距離設計

翌日、森山先生からお電話をいただき、正式に設計をさせていただくことになりました。   設計作業はまず基本設計から入ります。その間、何度もお会いして打合せを重ねなければなりません。遠いからと言って電話やFAXだけでは意思疎通に問題が出てしまいます。   幸い、森山先生は月に1〜2回上京されて、いろいろなセミナーを受講されています。その時にお会いして打合せを行うことができました。結局、私たちが秋田に赴いたのは、設計中に2回、現場が始まってから4回だけで済みました。その分の交通費はご負担いただきましたが、後は通常の設計監理料で作業を行いました。

2回の現地打合せの時には、森山先生はもちろんですが、スタッフの方々とも打合せを行い、ご意見を伺うことができました。先生も気付かないことをお聞きできたので大変に参考になりました。

明るく暖かく

森山先生からはユニットの増設以外に次のようなご要望をいただきました。
@患者さんのために待合室を快適にしたい。
Aおしゃれな雰囲気の歯科医院にしたい。
B待合室から診察室が見えないようにしたい。
Cトイレを含めてバリアフリーにしたい。

この他にも医院を拝見して、明るい雰囲気の医院にしたらどうかと提案しました。ブルーを主体にした色使いもあって、医院全体が暗い雰囲気になっていたからです。女性を対象に、自然素材を使って落ち着きと暖かみのあるインテリアにすることを提案しました。

設計から工事へ

最初にお会いした時に作ったプランをもとに、基本設計を進めました。作業の動線や機器の配置を検討するとそのままでは納まらないところもでてきます。何度か修正作業を繰り返し、実施設計が終了したのは3月末。すぐに工務店に見積りを出しました。

見積りは、2〜3社による競争入札をお勧めしました。しかし、工務店とはこれまでの長いおつきあいがあるので、それはできないとのことです。工務店から提示された金額は2940万円。予算を940万円もオーバーしています。坪単価は65万円にもなります。外装工事を除いても55万円で、これまでの私の経験に比べても高いものとなってしまいました。

そこで工務店と数時間に渡る打合せを行い、設計内容を見直して減額することにしました。その結果500万円を減らすことができました。最終的な外装工事を除いた坪単価は45万円ほどで、通常の範囲に納めることができました。

1社の工務店を指定して工事するということは、工事上は有利になります。特に今回の工務店はお父さんの代からのおつきあいで、今の建物についてもよく知っています。日本海中部地震でまわりの建物が壊れた時も、この建物はほとんど被害がなかったというほど技術的にも信頼がおけます。工期が短いリニューアル工事では、納まりなどについて設計段階から一緒に検討できますし、時間のかかる材料の手配も事前にできるので助かりました。

工事は4月27日から5月10日までの2週間で行いました。いつものことながら、工事は夜中までやる突貫工事でしたが、結局11日までかかり、なんとか12日のリニューアルオープンを迎えることができました。

ホテルのような待合室

以前の待合室は、8畳の広さで、テレビに向かって長イスが2列に並ぶ配置となっていました。待合室に座るとテレビを見るしかありません。掲示板や歯科グッズを販売する棚など、いろいろ工夫されているものの、雰囲気が良いとは言えませんでした。新しいプランでは、隣の医局のスペースも利用して広さを2倍にし、天井は間接照明としておしゃれで落ち着きのある雰囲気づくりをしました。

一番奥には森山先生のアイデアで畳のコーナーを設け、テレビを設置しました。真中には小壁で囲まれたキッズコーナー。窓際には1人用の肘掛のあるカラフルな椅子を6台。また出窓のところにはカウンターをつくり、外に向かって座れるようにもしました。お年寄りから子供まで、自分の好きな場所を選んで、時間を過ごすことができるようにしました。

患者さんからはホテルのロビーのようだと喜んでいただいているそうです。窓際のカウンターに、情報をまとめたファイルを置いた所、熱心に読んでくださる方も増えたそうです。

車椅子でも使える

先生のご要望であるバリアフリーについても、床の段差をなくすことはもちろん、車椅子でも使えるように配慮しています。

もともと森山歯科医院では車椅子で入れるように外部にスロープを設置していました。ただ残念ながら、玄関には段差があり、トイレやX線室も車椅子で使えるようにはなっていませんでした。

そこでリニューアルでは、玄関内にもスロープを設置し、トイレ、X線室共、車椅子で入れるようにしました。ユニット廻りも入口に近いブースだけは広くして、車椅子で入りやすくしました。トイレは男女別々になっていたものを1つの部屋にして、内部で車椅子が回転できるスペースを確保しました。その他の部分は介護する人が付くことができますが、トイレだけは1人で入れるようにすることが大切だからです。トイレにはベビーシートも取り付け、身障者の方だけでなく、赤ちゃんを連れた方も利用しやすくしています。また、トイレの前には車椅子で使える洗口コーナーを設置しています。

X線室は、扉が狭いため車椅子で入りにくくなっていました。そこで新しい計画では扉を作り替えて幅を確保しようと計画しました。ところが、特注のX線室の扉は45万円もします。そこで、減額の相談の時に既存の扉を活かし、小扉を新設することで安価で幅が確保できる扉とすることにしました。内部も広くして、車椅子で入りやすいようにしています。

子鹿のロゴマーク

今回、もりやま歯科医院では、外装や看板もリニューアルしました。建物は建築後23年経っています。構造はまだまたしっかりしていますが、屋根や外装はリニューアルの時期を迎えていました。これまでの白っぽい外壁を明るい茶色に塗り替えて、街並みも明るくなるようにしました。

森山先生は今回のリニューアルでイメージも一新したいとお考えになり、医院の名称を、「森山歯科医院」からより親しみやすいようにと「もりやま歯科医院」に変更しました。そして新たにコムネットに依頼して子鹿のロゴマークも作られました。この子鹿は、男鹿半島と歯科医院にかけたもの。森山先生のユーモアセンスが光ります。看板は、このロゴマークに合わせて、オレンジ色をシンボルカラーとしました。

入りやすい玄関

玄関をバリアフリーにするために、スロープを付ける以外にも解決しなければならない問題があります。入口のドアです。もともと引き違いの自動ドアがついていましたが、車椅子には幅が狭いのです。ここでは3連引込みの自動ドアを設置しました。3枚のガラス扉のうちの2枚が動くドアです。これによって80cmに満たなかった入口の幅を、1m以上取ることができるようになりました。

玄関は脱いだ靴が乱雑に置かれがちです。そこで靴入れとスリッパ入れを造付けで設置しました。スリッパは既成の殺菌灯付きのものを置くことも検討しました。しかし患者さんの数から割り出すと2台設置しなければならず、場所を取ってしまいます。そこで造付けにして内部に殺菌灯を設置し、扉を閉めるとランプが付くようにしました。造付けの靴入れと一緒に腰掛けも作りました。お年寄りの方などが楽に靴を履くことができるようにするためです。

明るい診察室

診察室は今回のリニューアルで明るく暖かい雰囲気になりました。これまで窓を閉ざすことが多かったブルーのロールスクリーンを撤去したからです。ロールスクリーンを設置していたのは、冬に寒いからでした。1枚ガラスだったので、冷気が入り、ひんやりとしていたのです。そこで、今回のリニューアルで窓をすべて二重サッシュにしました。二重サッシュはよく使われるペアガラスよりも断熱性や遮音性に優れています。既存の枠に簡単に取り付けることができます。

診察室の各ブースはガラスのスクリーンで区切り、見せつつ隠すようにしています。森山先生のご要望で立った時に院内が全て見渡せるように、ガラスの高さは低めにしています。建物の正面に当たる部分は全面ガラスとなっています。ここに面して2台のユニットを配置しました。これまではロールスクリーンを閉めて診察していましたが、新しくなってからは外に向いての診察となります。足元に目隠しのフィルムを貼っただけです。とても開放的で気持ちのよいブースです。嫌がる患者さんが多いのではないかと心配しましたが、ほとんどの方は気にされないようです。

もりやま歯科の診察室で特徴的なのは、中央にステーションとなるカウンターがあることです。ここに診察中の患者さんのカルテが一列に並べられ、先生をはじめスタッフの方々はそこでカルテを見て、打合せをし、コンピュータに打ち込みをします。カウンターは受付のカルテ棚と背中合わせになっており、患者さんのカルテはガラスに開けられた開口からすぐに渡されます。診察が終わったカルテはカウンターに開けられた開口に入れると、受付で受け取ることができるようになっています。なかなか合理的なシステムとなっています。

きれいな空気環境

森山歯科では、空気環境を良くするための工夫も行っています。まず、換気扇です。寒冷地なので1年のうち閉めきっていることが多く、また今回の工事で二重サッシュにしたため気密性も上がっています。そこで熱交換ができる換気扇を設置しました。また空気活性機を設置して、空気の質を変えるようにしています。この空気活性機は雷による自然の空気浄化現象を再現し、別名「箱の中の雷雨」とも呼ばれているものです。待合室が患者さんでいっぱいになってもマイナスイオン効果で患者さんに気持ちよく過ごしてもらえると思ったからです。オゾンの滅菌効果も歯科医院にはありがたい効能です。空気活性機は診察室と受付の間に設置して、空気が医院中を循環するようにしています。

森山先生から、X線室のクロスには子供たちに喜んでもらうため電気を消した後に星が光るビニルクロスにしたいというご要望をいただきました。X線室は換気扇が付けられない閉鎖的な部屋なので、普通のビニルクロスは一番使いたくない所です。数年経っても匂いが抜けない所もあります。しかしどうしてもとおっしゃるので、夜帰る時にX線室のドアを開けて空気活性機の出力を最高にしておくことを提案しました。その結果、2週間ほどの間に、X線室のドアを開けてもクロスの匂いがしなくなったそうです。


株式会社コムネット Together 連載 「いきたくなる歯科医院」より転載

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