待ちに待った建て替え
この建物は目の前が大きな公園になっており、副都心池袋から歩いて5分とは思えない、緑豊かな環境に恵まれた敷地です。この敷地に鉄筋コクリート造4階建ての住宅を建設しました。 この敷地には古い木造家屋が建っていました。もともと戦後の仮住まいのつもりで建てた家で、いつか新築しようと思いながら、副都心に近いこともあって用途地域が変更になり、大きな建物が建てられるようになるかもしれないと期待しているうちに時間だけが流れてしまいました。建主も高齢になってきたので、早く新しい家でゆっくり過ごしたいと決心しての建て替えでした。 そのせいもあり、建主の建て替えに対する希望と期待にはなみなみならぬものがありました。少しでも広く、明るい、健康的な住宅がほしい。家相として気学に則った間取りとしたい。お茶室もほしい。などなど。盛り沢山のご要望をいただきました。
三世帯住宅
この建物は、建主のご家族3世帯が、3つのフロアに分かれて住まいを構えています。通常のマンションと同じように、共用の階段とエレベーターによって結ばれるだけで、各住戸は完全に独立しています。それぞれの世帯がお互いに干渉することなく生活できるようにと配慮した結果です。ただ、電話だけは内線電話をつなぎ、日常の連絡や、留守の時に応対できるようになっています。
こだわり住宅
建主のこの住宅への思い入れは、さまざまなところへのこだわりでわかります。設計中も納得するまで何度でも話し合いました。打合せは平均して6〜7時間にも及び、ショールームも1社では満足せず、数社を、何度も訪れるという気の入れようです。
現場が始まってからも、毎週の定例会議には必ず出席され、現場の様子も隅から隅までご覧になり、気になる所は納得がいくまで考え、必要であれば変更しました。そのつど、図面を書き直し、材料を見直しと、監理も現場も大変でしたが、とことん話し合い、納得していただくことの大切さを教わりました。
茶室
奥さんと娘さんのご趣味はお茶です。そこでお茶室をつくることを希望されました。それも広間と小間、水屋のある本格的なものです。私にとってもこれほどのお茶室は初めての経験で、本を見たり、実例を見学したりと、ずいぶんと勉強させていただきました。木場の材木屋に行って銘木を見てまわり、気に入った材木を探して使うということも、最近ではなかなか経験できないことです。
茶室とは言っても、コンクリートの建物の中ですので、お庭はバルコニーしかありません。そこで、バルコニーに和風のガーデニングをしつらえました。これはもともと工事には入っていなかったので、少しでも安くするため、私が材料の手配を行い、建主といっしょに手づくりで作ったものです。人工土壌をしきつめてタマリュウで覆い、茶花となる植物を植えました。敷瓦を並べ、つくばいを置いた所、狭いながら雰囲気のあるお庭となりました。この庭からにじり口をくぐって小間に入ることができます。
気の器
家相へのこだわりにも並々ならぬものがありました。建主は知人からの紹介で気学の先生に相談していました。地鎮祭や引っ越しの時期などもそれによって決められました。
その気学は普通の方位学などとは違い、水場の配置に特徴があります。すべての水の出口(蛇口)が建物の中心から東南〜南の90°の範囲におさまらなくてはならないと指導されます。普通の建物では、東南〜南というのは日当たりがいいので中心となる部屋を配置します。しかし、そこにお風呂やトイレ、台所を入れなければならないのです。
これはなかなかの難問でした。採光をはじめとした法規上の問題を解決しながら、しかも盛り沢山の建主のご要望にもお答えしなければならないのですから。建主も南側が水場になることの不合理さには、ついつい文句を言いたくなるようでしたが、気学によって幸福や繁栄を約束されると信じていることもあり、忠実に守って間取りを考えました。
何度も案をつくっては、考え直すという作業を繰り返し、ようやくできた案を持って、先生に見ていただくと、「よくここまでまとめましたね。とてもいい建物です。」とお褒めの言葉をいただきました。実際に、気学の効果が現れるかどうかが判るのはこれからで、とても楽しみです。