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初声歯科クリニックの物語

ワークショップで医院づくり


23年目のリニューアル

 神奈川県三浦市の初声歯科クリニックの木村先生から、医院のリニューアルについてご相談をいただいたのは昨年の6月です。
 初声歯科クリニックは、京浜急行の終点、三崎口の駅前広場に面した3階建てのビルの2階にあります。開業は23年前、大規模な改装をしないできたので内装も古く、また、使い勝手の悪いところもあります。ちょうどビルの1階の店舗が空いたのでどうしようかとお悩みです。設計や工事、工事費のことなどの基本的なことや、どういう風に進めたらよいか判らないというご相談です。
 医院を1階に増やすと面積は1.5倍になりますので、待合室やカウンセリングルーム、スタッフルームの充実を図りたいとお望みです。また、これまでは難しかったお年寄りや車椅子の方への対応もできるようにしたいとのご希望も。しかし、1階と2階は外部階段で行き来きせざるを得ないので、使い分けをどうしたらよいかというご相談です。

年中無休の歯科医院

 初声歯科クリニックは、地域に根ざした歯科医院として多くの方々に信頼されています。その礎となっているのが木村先生が引き継いだ時から始めた年中無休の診療です。日曜・祝日はもちろん、元旦も休まず診療を行っています。いつでもあそこに行けば診療が受けられるという安心感は、地元の方にとってはうれしいことでしょう。私もどうしても休日に歯医者さんに行きたいという経験が何度かあり、そのありがたさはよく分かります。木村先生がめざす地域に還元する医療の1つの姿です。
 それを支えているのはスタッフの皆さんです。年中無休とは言っても、スタッフはきちんと週休2日が確保されています。ドクター4名、衛生士5名、スタッフ17名の大所帯で、複雑にならざるを得ない就業時間を調整しながら、その体制を維持してきたそうです。また、歯科医院では結婚や子育てなどで職場を離れる人が多いと思います。しかし、そういう方々にも働いていただくため、多くのスタッフが時間を融通しあって働いています。ちょうど時期を同じくして、初声歯科では就業規則の検討をはじめました。スタッフの皆さんが長く、安心して治療に専念できるようにという思いからです。このようなところにも木村先生のスタッフへの思いやりを感じることができます。
 木村先生は、患者さんが安心して治療を受けることができ、気軽に予防のためにも来ていただける、親しみやすい歯科医院にしたいとお望みです。また、スタッフの皆さんが働きやすい歯科医院にすることもご希望です。そこで、建物の制約と診療システムの検討をしながら、どのような歯科医院にするかについては、スタッフの皆さんと一緒にワークショップを行って検討することを提案しました。

5回のワークショップ

 初声歯科では、忙しい時間をやりくりしていただき、午前中の研修時間に5回のワークショップを行いました。
 ワークショップには全員が参加することはなかなか難しい中、3人の常勤ドクターには必ず参加していただき、他にも休みにも係わらず参加してくださったスタッフの方もいらっしゃいました。自由な雰囲気でいろいろな意見をたくさん出してもらい、スタッフの皆さんもリニューアルに参加しているという意識を持ってもらうように務めました。
 最初のワークショップのテーマは「いきたくなる歯科医院」。2つのグループに分かれて、まず「患者の立場で考えるいきたくなる歯科医院」について考え、次に「スタッフの立場で考えるいきたくなる歯科医院」について、自由に意見を出していただきました。患者とスタッフの視点を変えることによって、いきたいと思う医院には何が必要か、いろいろな意見が出されとても参考になりました。
ワークショップ

 2回めのワークショップでは「働きやすい環境づくり」を話し合いました。まず、参加者がどういう歯科医院にしたいかを話し合い、続いてどういう部屋の配置だと使いやすいかなどを話し合いました。働きやすさとしては、信頼しあえること、ルールが守られること、コミュニケーションが取れること、居心地がよいことなどがあげられました。そして、そのためには部屋や設備、掃除のしやすさなども大切との意見が出されました。
 3回目のワークショップでは「新しい初声歯科づくり」がテーマとなりました。他の歯科医院の実例を見ながら、初声歯科クリニックではどのような雰囲気づくりにするかを話し合いました。その結果、暖かみがあり信頼感のある歯科医院にすることが決められました。
 また、それまでに検討されてきた平面図を元に、意見を出し合いました。
 4回目のワークショップでは「部屋ごとの検討」を行いました。待合室、診療室、スタッフルームなど、自分が働く場所ごとに、細かい要望をまとめました。
 5回目のワークショップでは「気持ちのいいトイレ」づくりを行いました。今回、患者さん用のトイレは2ヶ所設置されます。それをどこにも負けないようなトイレにしたいというのが木村先生のご希望です。そして、これまでのワークショップをふまえて、そのデザインをスタッフに任せたいとお考えになったのです。患者さんに喜んでいただくにはどんなトイレがいいか。みなさん、いろいろなアイデアを出してくださいました。
 さて、このように5回にもわたるワークショップを行いながら医院の設計を行ったのは、私達としてもはじめての経験です。

気持ちのよい場所を患者さんへ


1階と2階の結びつき

 ビルの2階にある初声歯科クリニックから、1階の店舗が空いたため医院の拡張を検討したいとご相談をいただきました。しかし、1階と2階は外階段でつながっているだけです。
 バリアフリーも考えて1階でも診療を行いたいというのが木村先生のご希望です。しかしそのためには各階それぞれに入口と受付や待合室、レントゲン室が必要になります。それを最小限にするため、多少の不便は承知で外階段を行き来せざるを得ないのではないかとお考えです。ところが、部屋の配置がうまく整理できないとのことです。
 確かに難しい設計条件だと思います。通常このような場合、1階に待合室と受付を設置して2階は診療スペースと分けたいところです。そうすれば、待合室と診療室の行き来は外階段を利用しても、部屋や設備を二重にする必要はなくなります。しかし、1階にも診療室を設置するとなると条件は複雑になります。階段は外部なので患者さんはいったん道路に出ないとなりません。1階と2階のスタッフのコミュニケーションも難しくなります。
 そこで検討した結果、内階段の設置を提案しました。内部で1階と2階が結ばれれば、上記の問題点のいくつかは解決できるからです。
 内階段を設置するなら、待合室の近くに設置したいところです。動線が短くなり、上下の行き来や連絡がスムーズになるからです。ところがこのビルは鉄骨造です。床は鉄板の上にコンクリートが打たれています。階段をつけるとなるとコンクリートの床に開口を設けなければなりません。やってできないことはありませんが、構造的な補強も必要になり大工事になってしまいます。
 建物の構造を検討したところ、鉄骨造の本体に手を加えずに階段を設置することができる場所のあることが分かりました。そのため、内階段の位置は1階の一番奥になってしまいます。やや使いづらい位置ではありますが、他に選択肢はありません。

分けられるもの分けられないもの

 内階段をつけることによって、患者さんは道路に出ないで1階と2階を行き来できます。メインの入口を1階にすれば受付も1ヶ所でよくなります。他の部屋もそれぞれの階に設置しなくてもよさそうなものです。ところが検討していくと、そうは簡単でないことが分かってきました。
 まず、1階の面積は限られています。そこにユニットを3台置きたいというのが条件です。少しでもバリアフリーで診療できるようにしたいからです。そうなると、待合室の面積は限られてきます。少ない面積をカバーするには2階にも待合室を設置しないとなりません。消毒室もすべてを2階にするのは不便です。やはり1階にも必要です。X線室も2階に上がれない患者さんのためには1階にも必要です。もちろんトイレも。
 と考えると、やはり1階と2階のそれぞれに、同じ用途の部屋をつくる必要があります。そこで各部屋については次のように整理しました。

1.受付……メインは1階とし、2階にも患者さんの案内用に中受付を設置。
2.待合室……1階は4人が座れる待合室を設置。2階に広いスペースを確保。一部は託児コーナーにし、またスタッフルームと一体にして患者さん向けのセミナールームとしても利用。
3.診療室……1階はバリアフリー対応の診療室として3台のユニットを設置し、2階には4台設置。
4.消毒室……1階は簡単に洗い物ができる消毒室とし、2階で本格的な消毒ができるスペースを確保。
5.トイレ……各階に設置。1階は車椅子でも利用可能。
6.X線室……2階がメインとなって、パントモとデンタルを設置。1階はデンタルのみ設置。
7.カウンセリング室……1階に独立したカウンセリング室を設置。1階の患者さんで階段の上り下りができない方はユニットで対応。

 以上をまとめると、図のようになります。
平面の模式図


一番気持ちのいい場所

 このように書いてくると、部屋の配置はこれで決まったように見えます。しかし、そうは簡単ではありません。図のようにまとめるまで13案もプランをつくり検討しました。ワークショップでスタッフの皆さんの意見を聞きながらまとめたところもたくさんあります。
 階段の位置が決まると、それを中心に部屋の配置を考えなければなりません。1階については階段までの廊下が必要です。この廊下は多くの患者さんが通るので、診療室が見えないようにしました。その結果、動線分離プランとなり、各ブースも半個室とすることができました。
 難しいのは2階です。これまでの診療室は駅前広場に面した窓際に4台、裏の窓に面して2台のユニットがあり、2つの部屋に分かれていました。2階に設置するユニットは4台ですから、駅前広場側をそのままにするのが素直な考え方です。しかし、駅前広場に面した場所はこの医院で一番気持ちのいい場所です。しかも、駅前広場から見えるので医院の顔ともなる所。そこに治療風景が見えるのもPR効果はありますが、もっと医院の特長を出すことはできないでしょうか。いろいろな案を検討しても、どれも一長一短でなかなかいい案がでてきません。
 そんな時、院長の木村先生から、中待合を駅前広場側にしたいという提案がありました。この医院で一番気持ちがよいところを患者さんのスペースにしたいというご希望です。この案では、一番奥にある階段から駅前広場側の部屋まで廊下をつけないとなりません。廊下の面積が無駄と感じられます。しかし、そのためにスタッフ室と中待合は一体となります。廊下に面してカウンセリング室やトイレを設置できるので、プライバシーが守りやすいというメリットもあります。結局、それが最終案となりました。
 完成してみると、やはり窓際のカウンター席は目の前に景色が広がっていてとても壮観です。最初にその席から埋まっていくそうです。そしてそこは、スタッフの皆さんにもお好みの場所となりました。改装前に昼食は窓がないスタッフルームで食べていました。しょうがないので昼休みにテレビは必需品。ところが改装後はお昼は待合室が利用されています。明るく開放的なので会話がはずみ、テレビを見ることがなくなったそうです。ワークショップの際に、スッタッフのコミュニケーションを図る場所がほしいとう意見がたくさんでていました。それが図らずも一番気持ちのいい場所を中待合とすることで実現しました。

工事中も休まず診療


診療を休まず工事?

 初声歯科クリニックの特徴はいくつかあります。しかし最大の特長は年中無休の診療でしょう。5年前からこの体制を始め、以来一日も休まず1800日余り。今日も記録が伸び続けています。
 医院を休まないということは、患者さんにとっては大変ありがたいことです。しかし、医院にとってはなかなか大変です。スタッフの就業時間の調整はもちろんのこと、補修工事などを行うにも制約が出てきます。開業以来23年間リニューアルをしないできたので手を入れたいところはたくさんあります。しかし、医院を休まないでリニューアル工事を行うなどとは考えることもできません。今回、1階の店舗が空いたことによる増床は、千載一遇のチャンスでもあるわけです。
 ということで、工事を計画するにあたって、院長の木村先生のご要望は医院を休まないことです。しかし、本当にそういうことが可能なのか、ご本人も見当がついていなかったと思います。私達も最初にそのお話を伺った時は無理だと思いました。増床されるスペースがあっても、工事は音も出るしホコリも出ます。診療にも大きな影響が出てしまいます。
 リニューアルを行う場合、どちらの歯科医院でも工事期間は一日でも短くとご希望されます。しかし工期を無理してもらうといろいろな不具合がでてしまうことが多くなります。そこでほとんどの場合、2週間程度の現場工事期間をいただくことにしています。もちろんその前に工場でつくる物等はつくっておきます。現場の工事が2週間。その前後には後片づけや準備が必要となります。最初は2週間ゆっくりお休みすることをお勧めしました。
 しかし計画を練りながらよくよく考えてみると、診療を行いながら工事をすることはできない相談ではないことに気がつきました。初声歯科クリニックでは1階でも治療を行います。それが解決の糸口となりました。
 通常の計画であれば、このような2階建ての医院では、1階に受付と待合室を設置し、2階に診療関係の部屋を集約します。そのほうが無駄がありませんし、スタッフの行き来も楽になります。しかし、ここでは1階にバリアフリーの診療室を設置するという大きな方針がありました。そのために1階と2階にそれぞれ同じような部屋ができることになりました。その経緯は先にお知らせしたとおりです。一見、無駄が多いように見えるプランが、結果として診療を休まず工事を行うことを可能としたのです。

3期に分けて工事

 初声歯科クリニックの平面図は下図のようになっています。1階に3つの動線分離されたブース、消毒室、X線室、それに受付と待合室があります。2階には中待合と2つに分かれた診療室、スタッフルームなどがあります。今回の工事では、道路から車椅子で入れるようにスロープも新たに設置しました。そのため、隣の薬局の前も含めて建物全体の道路側も改修しています。
平面図
 検討の結果、この工事を次の3期に分けて行うこととしました。
1.第1期工事……1階の工事を行いました。この時、最終的に受付となる部分も仮診療室として、ユニットは4台設置しました。将来待合室となる部分を受付とし、待合室は廊下に椅子をおいて対応しました。外部のスロープ工事も同時に行いました。
2.第2期工事……2階の工事を行いました。これは最終的な形として整備しました。
3.第3期工事……1階の仮診療ブースを撤去し、受付と待合室の工事を行いました。  この工事に合わせて、1階を工事している時は2階で、2階を工事している時は1階で診療を行いました。1階の仮診療の時には3台のユニットでは足りないため、受付部分にもユニットを設置して4台で仮診療を行うことができるようにしました。入口が、1期工事の時は今までどおりの2階、2期工事になると1階、3期工事でまた2階、完成後には1階とめまぐるしく変わったので、患者さんはだいぶ迷われたようです。
 この複雑な工事は1ヶ月の準備期間を経て、6週間の現場工事で行われました。第1期工事に19日間、第2期工事に15日間、第3期工事に8日間。工務店の努力により、工期どおり1日の遅れもなく工事が完成しました。もし少しでも工事が遅れるとせっかくの休みなしで診療を行うことができなくなります。また、本格的に診療が始まると簡単に手直し工事もできなくなるため、工務店としても細心の注意を払って工事を行いました。そのおかげで無事工事は終了しました。

スタッフの皆さんの努力もあって

 工事が3期に分かれるということは、引越しも大変ということです。通常であれば工事の前後の2回で済むところが3回の引越しが必要となります。しかもそれを診療を休まずに行わなければなりません。午前中診療して午後から引越しとか、午前中片付けて午後から診療というような繰り返し。ドクターをはじめスタッフの皆さんは本当に大変だったと思います。その努力の甲斐あって、一日も休まずリニューアル工事を行うことができました。
 工事中、音などで患者さんにもご迷惑をおかけしたと思います。しかしどの患者さんも、医院をリニューアルすることを喜んでくださり、気持ちよくご協力いただいたそうです。これもスタッフの皆さんと患者さんのコミュニケーションがうまく取れている証拠だと思います。

医院の顔づくり


医院の顔となる入口周辺

 入口の周辺、特に玄関と受付、待合室は医院の顔となる所です。人の意志伝達の効果は外見が55%を占めるという実験結果があるそうです。つまり見た目が大切ということ。そして見た目では第一印象が特に大切だそうです。これは歯科医院にもあてはまります。はじめて来られる患者さんにとっては、どんな医院かを印象付けるのが入口周辺ということになります。私も歯科医院を選ぶとき、見た目で入るかどうかを決めることが多いです。玄関まで行っても、なんとなく入りにくいと感じると、そのまま帰ってくることもよくあります。
 ですから、歯科医院のリニューアルを行う時には、入口廻りには他のところよりも工事費の割合を多くして、歯科医院に相応しく演出してはどうでしょうか。それは患者さんの印象だけでなく、スタッフの皆さんへも良い影響があると思います。自分が働く歯科医院が家族や友達に誇れるところであれば、自分の歯科医院としてもっと前向きに仕事に取り組んでいただけるのではないかと思います。
 リニューアルした初声歯科クリニックでは1階が入口、つまり医院の顔となりました。とは言っても1階にユニットを3台設置し、しかも消毒室やX線室も必要となって、スペースはどんどん圧縮されてしまいました。結局、入口部分では中央にドアを設置し、右側に受付、左側に待合室を設置しました。玄関は十分な広さとは言えません。待合室も4人分の一人掛けの椅子を置くスペースしかありません。それでも医院の顔としてのデザインが求められます。ドクターをはじめスタッフの皆さんといろいろな話し合いをしながら、最終案がまとめられました。

看板となる入口

 外部から見えるものが医院の印象を決めるのですから、すべてが看板の役割を持っているといえます。玄関から見える内部の印象、垣間見える待合室、診療室も看板の役割を果たしています。
 初声歯科クリニックの入口周りでは、受付のガラス面は白いフィルムを貼って中が見えないようにすると共に、表面にカッティングシートを貼り看板にしています。また、待合室側のガラスは下半分は不透明、上部は中が見えるフィルムを貼り、医院の様子が見えるようにしています。外から見るとどちらも医院の顔の役割を果たしています。
 今回の工事で整備したスロープも、バリアフリーの医院であることをアピールする看板の役割を果たしています。

親しみやすく品格もある受付

受付は最初に患者さんが接する場所となります。あまりに敷居が高いと入りにくくなってしまいます。一方、医院の品格を表すところでもありますし、お金を扱うところでもありますので、ある程度の高級感は欲しいところです。
 初声歯科クリニックでは、受付カウンターや収納家具はこげ茶色の木製で統一されています。天井と足元には間接照明を入れて高級感を演出しています。
 カウンターの内外はスィング扉で仕切られ、オープンなつくりとなっています。カウンターの右にはガラスのショーケースを設置して、いろいろな商品を展示できるようにしています。カウンター左手にはカバンなどをのせて会計ができるように段がついています。奥の壁面は全面が造付けの収納棚となっています。

いろいろな役割を持つ待合室

 待合室にはいろいろな役割があります。1つめは医院の雰囲気を伝えるという役割。外から待合室が垣間見えると、はじめての患者さんでも医院に入りやすくなります。一方、患者さんにとってはある程度のプライバシーは確保されたいところです。ここでは半透明のフィルムによって外から内部の様子が分かると共に柔らかくプライバシーを守っています。
 また、待合室は診療や会計を待つ場所です。快適に時間を過ごしていただけるようにする必要があります。患者さんどうし、また受付のスタッフともある程度の距離がほしいところです。それは物理的な距離のこともありますが、頻繁に目と目が合わないようにするという距離感も大切です。ここでは玄関との間をパーティションで仕切り待合室の独立感を高め、また椅子は一人掛けとしています。
 もう1つ待合室の役割は、歯科の情報を得ることができる場所ということです。玄関や受付に医院からのお知らせやいろいろなポスターなどが所狭しと貼られているところがあります。それは情報提供という役割が勝ってしまい、快適に時間を過ごすという役割を圧迫していると言えます。そのバランスが大切になります。初声歯科では情報用の掲示板を設置し、それ以外の情報はファイルに入れ、張り紙をしないことにしました。おかげですっきりした待合室となっています。

患者さん向けのスペースづくり


プライバシーを守りながら

 歯科医院の最近の傾向として、患者さんのプライバシーを大切にすることがますます必要になっていると感じます。診療中というのは全く無防備で、しかも口を開けていることも多いので他の人には見られたくない姿をさらしています。また、診療内容やお金のことなど個人情報を話さなくてはならないこともたくさんあります。
 診療室を個室化するか、個室は無理でもパーテイションで隣のユニットが見えないようにするとか、声が聞こえにくくする工夫をするとよいと思います。また、カウンセリング室は是非設置していただきたい部屋です。じっくりと説明を伺い治療をどうするかを考えるには、ユニットでは落ち着きません。特に自費治療の場合は、大きな決断が必要なのですから、それ相応の時間と空間を用意していただきたいと思います。

独立性の高いカウンセリング室

 初声歯科クリニックのリニューアルにあたり、木村先生からのご要望にカウンセリング室がありました。ただ、診療のどの段階でかカウンセリングを行うか、どのように患者さんを誘導するかについては決まっていませんでした。そこで、平面プランの検討と共に、カウンセリング室をどこにするか、どのようなシステムにするかを検討しました。
 その結果、2階にカウンセリング室を設置することになりました。本来は1階に設置したいところですが、1階ではどうしてもスペースが確保できません。そこで患者さんには2階まで階段を登っていただくことにしました。階段を登ってすぐのところがカウンセリング室となっています。階段を登れない患者さんにはユニットでカウンセリングをすることにしています。階段脇にしたおかげで、他の部屋から独立性の高い場所を確保することができました。
 カウンセリング室は2〜3人がパソコンの画面を見ながら座ることができます。正面で向き合わず、斜めに表情が見えるように造付けの円形テーブルを作っています。正面の壁にはドクターや衛生士の皆さんの講習の修了証を縮小コピーし、額に入れて飾っています。縮小しても目の前なので内容は分かります。修了証で壁がいっぱいにならず落ち着いた雰囲気になっています。

3つの診療室

 初声歯科では、プランをいろいろと検討していく中で、7台のユニットが3つの診療室に分かれるプランとなりました。
 診療室の配置にはいろいろな考え方があると思います。ユニットをなるべく近くに配置して、先生がすべてを把握できるようにということを希望する先生もいらしゃいます。一方、最近の傾向として、予防と診療のスペースを分けて配置するという考えをなさる先生も多くなってきました。初声歯科の場合はそのどちらにもあたりません。もともと初声歯科では、診療室が2つに分かれていました。それが3つになり、それぞれの診療室が2台から3台のユニットとなったのです。ドクターやスタッフの皆さんの動きやすさもいろいろと検討されましたが、より個室感が高くなり、患者さんが治療を受けやすいこのプランに決まりました。

2つのトイレ

 リニューアル前の初声歯科のトイレは1ヶ所しかなく、患者さんとスタッフが共用するようになっていました。お互いに気を使ってしまい、ゆっくりと落ち着いて入れる雰囲気ではありませんでした。
 リニューアルにあたり木村先生は、患者さん用のトイレを別にすることはもちろんですが、どこにもないトイレにしたいというご希望を持たれました。そして、それをスタッフの皆さんに自由にデザインしてもらいとお考えになりました。患者さん用のトイレは各階に2ヶ所できます。それを2つのグループに分かれて、ワークショップで一緒に検討を行って設計をまとめました。
 1階のトイレではバリアフリーがテーマとなりました。車椅子でも入れるようにしています。同時に赤ちゃんを連れた方が使いやすいようにベビーチェアを設置しています。洗口コーナーも兼ねた洗面台の鏡は間接照明としています。
 2階のトイレでは居心地のよさがテーマとなりました。1階とは違ったデザインの間接照明が落ち着いた雰囲気を出しています。
 プランを検討し、床や壁の材料見本を見ながらイメージを膨らませていきました。ベビーチェアや自動水栓などもスタッフのみなさんの希望を入れたものです。

ふりかえりのワークショップ

 リニューアル工事が終わると、スタッフの皆さんには引越しが待っています。初声歯科では一日も休まず診療を続けてきたので、これまでの仮診療から本格診療のための引越しでもあります。先生をはじめスタッフの皆さんは本当に大変だったと思います。私も引越しはよくやります。しかし、何回引越しても物がどこにいったか分からなくなったり、使い勝手に慣れるまで時間がかかったりしてしまいます。時間がないと、とりあえず置いてという感じで整理してしまうので、いつまでたっても片付きません。それを診療を続けながら整理しなければならないので、その大変さは私などの比ではないことは容易に想像ができます。
 リニューアルの完成から2ヶ月後、私達は初声歯科の皆さんに時間をとっていただいて、ワークショップを行いました。初声歯科ではリニューアル工事の前に、いきたくなる歯科医院とはどういうものか、それを実現するにはどうしたらよいかについて、5回にわたってワークショップを行いました。そして、極力その成果をリニューアル工事に反映させてきました。今回のワークショップはそれを再確認すると共に、その思いやアイデアを忘れずに記録したいと考えたのです。診療が始まると日々の忙しさに追われて、最初に考えたことは忘れてしまい、ついつい使い勝手や美観を台無しにしてしまうかもしれません。そうならないように、理想とする姿をまとめることが目的です。
 ワークショップでは、受付や待合室、診療室など、部屋別にチームになって、現状で気になるところは何か。それはどうやったら改善できるかを話し合いました。その内容は写真に撮り、その場でプリントアウトして、チーム別に発表しました。発表の内容は、誰でもがそうだよねとうなずくものもあれば、画期的な提案に思わず拍手が湧き上がるものまであります。その結果は1冊のファイルにまとめられています。このファイルをこれからどう活用するか。それはスタッフの皆さんにゆだねられています。できれば1年に1回くらいワークショップができればいいと思います。

かたづけセミナー

 リニューアルによって舞台は整いました。ふりかえりのワークショップによってあるべき姿もイメージできました。しかし、それですぐにうまくいくかというとそうでもありません。あるべき姿が分かっても、それを維持する技術が必要となります。
 そこで私は友人の「かたづけ士」の小松易さんをご紹介しました。彼は日本でもめずらしいかたづけのプロで、どうやったら片付けられるかについて、考え方や具体的な方法を教える仕事をしています。ちょうど、同じ時期にテレビ番組の「ガイアの夜明け」に登場してから、急に忙しくなったそうです。片付けのスキルを身に付けてもらえば、みんながめざすあるべき姿により近づきやすいのではないかと考えたのです。
 初声歯科では、小松さんを招いて2回にわたってセミナーを開催しました。そのうちの1回は、患者さんにもお知らせしてオープンセミナーの形式で行われました。
 初声歯科の木村先生は、リニューアルの目的のひとつにオープンセミナーができるスペースをつくることをあげておられ、そのためにスタッフルームと中待合は可動間仕切りとして大きな部屋にすることができるように設計していました。その記念すべき第1回めが、かたづけセミナーとなったのです。
 セミナーの成果には目を見張るものがあります。これまでなかなか片付かなかった収納棚や機器の配置が、見違えるように整理整頓されました。整理されるとスペースにも余裕が出てきて、余計に片付けが楽になるといういい循環を生んでいるようです。


株式会社コムネット Together 連載 「いきたくなる歯科医院」より転載

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