エコラインでは、建築や歯科医院の設計と同時に、防災にも取り組んでいます。小野は30年にもわたって防災まちづくりを行っており、神戸の震災復興計画のお手伝いもさせていただきました。防災は常に身近なテーマとなっています。
しかし、東日本大震災のような未曾有の被害を目の当たりにすると、人間の微力を感じざるを得ません。今回の震災では想定外という言葉がよく使われています。防波堤を乗り越えてくる津波、防波堤自体を破壊してしまうその威力には、ただ目を奪われるばかりです。救われるのは、日頃の防災対策が役立ったところもあるという報告です。釜石では防災教育のおかげで小中学校の児童生徒のほとんどが生き延びることができました。今、私たちにできるのは、できるだけのことをやり続けることではないかと改めて思います。
日本では、地震活動が活発期に入ったという研究者もいます。今回の被災を免れた地域でも、これから地震や津波の被害が起こる可能性があります。普段からの備えがますます重要になってくると思います。
防災まちづくりから学ぶ
小野はこれまで、いろいろな地域の防災まちづくりを手がけてきました。また、建築士として行政に協力しており、地震後6日めに、茨城県桜川市に建物の危険度を判定するために入りました。また、近くで救援物資の仕分け作業があるというので、ボランティアで参加してきました。実際の現場に立つと、報道では見えないことがいろいろと分かります。
応急危険度判定
救援物資仕分作業
さて、防災まちづくりでは、はじめに地域にはどのような危険があるかを把握します。そして、起こりうる災害に対して、地域がどのくらい対応することができるのかを探ります。対応できない場合にはどうやって避難するのか。最初の危機を脱したあとはどのように生活を維持するのか。そして復旧や復興をどうなしとげるのか。といったことを検討します。その際、私が大切にしているのは住民参加ということです。これらの検討を住民の皆さんと一緒に考えるのです。それによって、住民は自らの問題として防災に取り組むようになります。それが地域の防災力になると考えています。
まず必要なリスクの把握
防災対策を考える上で最初に必要となることは、地域でどのような災害のリスクがあるかを把握することです。日本では、主な自然災害としては地震、台風や暴風・豪雨、火山の噴火、それらに伴って起こる津波、洪水、高潮、大火災、地盤災害などがあげられます。
多くの都道府県や市町村では自然災害による被害想定を行っています。想定される地震の時にどのくらいの震度になるか。その場合、家屋の倒壊や火災、避難の危険度がどのくらいか。また浸水被害がどこに起こりやすいか、などの情報を提供しています。それらを確認しておくことは対策を考える上で重要になります。今回の大震災を経験して、これまでの被害想定は見直される可能性があります。見直しには時間がかかるものと思いますが、最新の情報を入手するようにしたいものです。
次に建物がどの程度災害への対応力があるかについても把握する必要があります。地震に関しては昭和56年(1981年)というのがひとつの目安となります。この年に建築基準法が大改正されて、構造の基準が大幅に変更されました。昭和56年6月以降に確認申請を出した建物であれば、新しい基準に基づいた耐力を持っていると考えることができます。一方、それ以前の建物の場合は十分な強度を持っているかどうか分かりませんので、耐震診断を行って強度を確認しておくことが求められます。
また、洪水や津波などの心配がある地域では、どの程度の高さまで水が来るかを把握することが重要です。
事前に行う対策
リスクの把握ができたら、次はそれに合わせて対策を検討します。必要になる事前対策の項目は次のように多岐にわたります。次のチェックリストを参考にしてください。
●建物の耐震性
先にお知らせしたように、建物の耐震性を判断する指標には建設時期があります。昭和56年より以前の建物の場合は耐震診断を行います。耐震診断の内容は構造によって異なり、木造の場合は簡易診断と精密診断に分かれます。鉄筋コンクリート造や鉄骨造の場合には、簡易的に行う1次診断から、耐震改修を目的に行う3次診断まであります。高次の耐震診断は構造を専門とする建築士にお願いすることになります。
構造以外でも、ガラスや外壁などの耐震性も問題になります。古いために耐震仕様になっていないサッシュや外壁は地震の時に壊れたり、落下する恐れがあります。
●家具の耐震性
建物が地震に耐えられても、室内の家具が凶器となる場合があります。固定されていない家具は倒れやすく、人に襲いかかることもあれば、避難経路を塞ぐ場合もあります。家具は、できれば造り付けにし、既製品の家具でも壁や天井に固定することが必要です。
オープンな棚の場合、中のものが飛び出してしまいます。棚に落下防止の工夫をするか、扉を設置したいものです。扉を付けても中のものが重いと振動で扉が開いてしまいます。その場合は耐震ラッチにすると安心です。
●火災の危険
火災で危険なのは台所です。しかし、ガスは地震と同時に遮断されますので慌てないことが大切です。また石油ストーブなどを使っている場合も注意が必要です。消火器を設置し、いつでも消火できるようにしたいものです。同時に、近隣の火災にも対応することができます。
●避難のしやすさ
地震が起こった時に、避難がしやすいということも重要です。避難する出入口が確保されていることや避難経路に障害物がないことを確認する必要があります。またビルの上階では、2方向の避難経路が確保されていることも大切です。
●浸水対策
浸水で注意が必要なのは地下室や半地下の駐車場です。部屋が水没して閉じこめられることも考えられます。また、浸水によって機械類が被害を受けることも考えられます。想定される浸水の高さより建物の床を高くしておけばいざという時にも安心です。建物全体のかさ上げが難しい場合でも、高価な機械類の設置場所を高くしておくなどの対策が考えられます。それも困難な場合には、パソコンなどの移動しやすい機器だけは、一時的に避難できる場所をとっておくようにすることも考えられます。
浸水対策
●情報
災害時には固定電話も携帯電話もつながらないと考える必要があります。最も確実に情報を得られるのは携帯ラジオです。時々電池をチェックしながら、防災備品に入れておきたいものです。
携帯電話の基地局が無事なら、電話はつながらなくてもメールやツイッター、フェイスブックなどはつながる可能性が高いようです。
●ライフライン
災害時には電気やガスは遮断されてしまいます。水道も本管に損傷があると断水になってしまいます。下水道は液状化などによって下水管が損傷しなければ使える場合が多いと思います。
電気については、懐中電灯で灯りを確保することや、電池を備蓄しておくことは最低限必要です。水についても飲料用にストックしておくと安心です。
●防災用備品
一般的な救急用品や防災備品を準備しておくことが必要です。
防災マニュアルづくり
災害時にどういう風に行動するかを決めておくことは事前対策として大変に重要です。防災マニュアルは、漠然と考えていただけでは、いざという時に役立ちません。また、誰かが作ったものを利用するよりは、その家に合ったもの家族全員で作り、内容をよく理解しておくことが必要です。誰もが自分のこととして取り組むことによって、家族の防災力を高めることができます。
そのためには全員参加のワークショップが有効となります。災害時にどのような行動をとるか、自分でわかる必要があります。和気あいあいと話し合いながら独自の防災マニュアルをまとめることができます。できあがったマニュアルにもとづいて役割分担を決め、年に1〜2回、訓練を行うと、より身についたものになるでしょう。
株式会社コムネット Together 連載 「いきたくなる歯科医院」より転載
●エコラインでは、家庭や歯科医院・店舗などの防災対策やマニュアルづくりのお手伝いをしています。
詳しくは防災対策出張相談をご覧ください。