あやしとは?
「あやし」とは奇異な名前に聞こえるかもしれませんが、実は地名です。漢字で愛子と書いて「あやし」と読みます。もともとは子愛観音という観音様を祭ったことからできた地名とかで、子供を愛することにちなむ地名です。最近では愛子様ブームで切符やグッズが売れているようです。しかし愛子の家には「癒しの家」と近い語感もあり、あえてひらがなの名前にしたわけです。
半年の思考作悟(しこうさくご)
この家に設計に際して、建主からは特に6つのご要望をいただきました。ご両親からは足の不自由なご主人のために高齢者向け住宅とすることと、家相にあった間取りとすること。子供夫婦からは木をふんだんに使った健康住宅とすることと、省エネルギーに配慮すること。そして共通の要望として、2世帯住宅にすることと、必要な性能は確保しながらできるだけローコストな住宅とすることです。
いつものことながら、建主のご要望を満足することは、なかなか骨の折れる作業です。あちらを立てればこちらが立たないということの繰り返しです。私はこの過程を「思考作悟」だと思っています。思い、考え、作ることの繰り返しを経て、悟りの境地と言うと少しオーバーですが、建主も建築家もこれがベストと思える案に到達することが設計の中でも非常に大切な過程だと考えます。この住宅でも、基本設計の段階で30ほどの案を作りました。最終的にこれで行こうと決まるまで半年ほどかかりました。
親は一階、子は二階
さて、この家は、親子が上下に分かれて暮らす2世帯住宅です。2世帯住宅のつくり方には、完全同居、一部同居、共有型隣居、隣居などいろいろな呼び名で表される方法が提案されています。
大正生まれのご両親にしてみれば、台所から浴室まで共同で使う「完全同居」が当然と思っていました。工事費や日常の経費も安くなるし、後々、身の回りのお世話になる時もその方がいいと考えていたようです。
しかし、まだ若い子供夫婦にしてみれば、生活のリズムも価値観も違う両親といっしょに暮らすのは抵抗がありました。結婚してから数年、すぐ近所ながら別の家で生活する、いわゆる近居で生活してきて、その良さが判っていたことも理由にあげられます。そこで何度か話し合った結果、玄関から完全に別々にすることにしました。ただし、玄関と玄関の間には扉があり、必要に応じて行き来ができるようになっています。
最初はもったいないとか、孫と一緒に暮らしたいと言っていたご両親も、子や孫の気配を感じることができながら、静かな生活も続けることができることが気に入った様子です。何か用事があればインターホンですぐに連絡もでき、これまでより安心して暮らせるようになりました。
車椅子で使える
1階のご主人は足が不自由で、つたい歩きしかできない状態です。そこで1階ではご主人の通る所には手すりをつけました。
また、浴室、和室も含めて室内の段差は無くしました。将来、車椅子でも生活できるように廊下の幅を広くし、部屋の仕切りは引込戸としています。ふだんは寝室からリビングまでオープンに使うことができます。可動の間仕切戸によって、いろいろな使い方ができ、将来への対応もしやすくなります。
家相への配慮
1階の奥さんは家相が気になります。そこで家相の専門家に見ていただきながら設計を進めました。
こんなことがありました。この家では南に面してリビングと台所があり、寝室は西側になっています。奥さんのご意見では、日当たりのいい所に寝室を持っていくべきで、台所は日の当たらない所がいいとおっしゃいます。しかし、高齢者が暮らしやすい間取りを検討していくと、トイレや浴室の側に寝室がある方がいいし、台所も明るい所がいいと思われます。家全体の間取りを考えると、寝室を西側にした方がしっくりします。そんなやりとりのあと、家相の専門家に意見を聞いてみました。そうすると寝室は西側が良く、台所は東南の角がいいとのことです。はじめは間取りに不満そうだったおばあさんも家相がいいと判ると安心したようです。